【動画版も追加】小島秀夫監督は『DIGGER/ディガー』のどこに震えたのか。イニャリトゥ監督と語る”新たな現実”

【動画版も追加】小島秀夫監督は『DIGGER/ディガー』のどこに震えたのか。イニャリトゥ監督と語る”新たな現実”
Photo : Victor Nomoto

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)と『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015)でアカデミー賞監督賞を2年連続で受賞したメキシコの鬼才アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が、あのトム・クルーズを主演に迎えた最新作『DIGGER/ディガー』。全米では公開直後から賛否両論が飛び交い、観客の想像をはるかに超えた奇想天外なストーリーが世界中の映画ファンを騒がせている異色作が、ついに日本公開を迎えました。

Video: ワーナー ブラザース 公式チャンネル / YouTube

ここでは、映画を引っ提げて来日したイニャリトゥ監督と、ステルスゲームの金字塔『メタルギア』シリーズや、プレーヤーが運び屋として分断された世界を繋いでいく『DEATH STRANDING』シリーズなど、数々の名作を手がけてきたゲームクリエイターの小島秀夫監督による対談が実現。世界を舞台に活躍する同い年の2人が繰り広げる、超貴重なトークを余すところなくお届けします。

※このインタビューには物語の核心に触れる内容が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。


笑い飛ばすしかない、怖すぎる現実

――イニャリトゥ監督の新作『DIGGER/ディガー』をご覧になって、小島さんはどう思われましたか?

小島秀夫監督(以下、小島):昨日観たのですが、素晴らしい作品で、クレバーな映画でした。隕石が落ちてきたり、宇宙人が襲ってきたりするような話ではなく、本当に現実に起こっていることが描かれている。すごく怖い映画でもあるんですけど、だからこそ、それをコメディに落とし込んでいるというか。どこまで話していいかわからないですけど、今作は映画と演劇という二重構造になっていて、最終的には、未来のことではなく過去のこととして演劇が出てくる。その構造が非常にうまくて、ちょっとびっくりしました。

© 2026 WBEI and Legendary
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あと、僕も映画が好きなので、キューブリックの『博士の異常な愛情』(1964)や、BBCが制作した『SF核戦争後の未来 スレッズ』(1984)という核戦争のドラマを思い出しましたし、劇中のトムの独白シーンでは、チャップリンの『独裁者』(1940)を思い出したりしました。今までの古典や、演劇映画の歴史も含めたトータルなアートというか。そこにすごいメッセージが込められていて、恐ろしいものを僕らに見せている。すごく複雑な構造なんですけど、非常にわかりやすい映画ではありました。

アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督(以下、イニャリトゥ):ありがとうございます。この映画は、私たちに押し付けられている物語について描いています。そうした物語を信じ込むことで現実が見えなくなり、重大な結果を招いてしまうんです。

映画の登場人物たちは、演劇の中の「現在」において、過去に自分たちがなぜそうした物語に囚われてしまったのかを探り、その過去から見た「未来」にいる自分たちを見いだそうとしています。そして、その物語をどう伝えるべきかを模索するのですが、彼らがたどり着いた唯一の方法は、笑い飛ばすことなんです。あまりにも辛いからこそ、生き抜くためには、その問題を認めたうえで自分自身を笑い飛ばすしかない。ですから、この映画では時空の扱い方が非常に重要で、このような物語を表現するのに、やっぱり映画は最適な媒体なんですよね。

© 2026 WBEI and Legendary
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また、ドラマチックな緊張感を生み出しつつ、観客が物語に没入して楽しめるようにするためには、「玉ねぎの皮を一枚ずつ剥いていくような構成」にする必要があると感じました。そうすることで、物語がどこへ向かっていくのかを、少しずつ明らかにしていくことができるからです。

ルビッチの『生きるべきか死ぬべきか』(1942)など、私にインスピレーションを与えてくれた映画はたくさんあります。もちろん、『独裁者』と『博士の異常な愛情』は、単に形式が似ているというだけでなく、本質的なところでも共通していると思います。私自身を彼らと比較するつもりはまったくありませんが、当時の彼らはコメディという手法を用いて、極めて深刻な問題を扱っていました。

そして、私自身も「一体、何が起きているんだろう」という不安を抱くようになったんです。私たちは現実との接点を失い、スマートフォンの中で語られる物語を生き、それを信じ込んでしまっているのではないか、と。その一方で、気候変動をはじめ、たくさんの問題が進行していることは明らかなのに、私たちは向き合おうとしていないわけです。だからこそ、この映画を何よりも風刺劇として描こうと思いました。なぜなら、私たちが生きているこの世界自体が、風刺のようなものだからです。

© 2026 WBEI and Legendary
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『メタルギアソリッド2』と『DIGGER/ディガー』に共通するもの

――小島監督が、ゲームを作るときは「未来を予言する」のではなく、「今起きていることを極端に拡張するような感覚がある」とおっしゃっていたのを拝見しました。イニャリトゥ監督が『DIGGER/ディガー』を制作した時も、そのような感覚はお持ちでしたか?

イニャリトゥ:まったくその通りです。私たちは同じ感覚を共有しているんだと思います。それはある意味、必要不可欠なものなんですよね。私にとって重要なのは、ストーリーテリングを通じて、物事への気づきが生まれることなんです。特に今このタイミングで、新しい世代にそうした気づきをもたらすことが大切だと考えています。

小島:2001年に『メタルギアソリッド2』というゲームを作ったんです。当時はまだSNSがなかったのですが、SNSがある種の生命を持つような、そんな物語を描きました。それが今、まさに現実となっていて、『DIGGER/ディガー』も同じですよね。SNSでは、真実ではないものが膨張し、それが政治や我々の日常を変えてしまうような恐怖があります。そういう意味でも、構造的に『DIGGER/ディガー』と似ているように感じました。僕らがあの舞台の中に入り、何か別の力によって動かされているような、そういう恐怖があったと思うんです。

今、一番僕らが怖いのは、気候変動もそうですが、何が真実なのかわからないデジタルの世界で右往左往している状況です。「笑うしかない」というのは、まさにそこなんですけど。そういう部分も描かれていたので、非常に面白かったです。

© 2026 WBEI and Legendary
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体験していないのに批判する。SNSがつくる「現実」

イニャリトゥ:そうですね。私にとって最も恐ろしいのは、まさに共通の現実との接点を失いつつあることなんです。今、何よりも驚くべきことは、誰もがスマホの中にある、断片化された真実の中で生きているということ。まさに今、この映画の外側で繰り広げられている会話を支えているのも、映画そのものではなく、この映画にまつわる物語なんです。まだ観ていない人でさえ、強い意見をお持ちなんですよね(笑)。つまり、我々にとっての「新たな現実」とは、経験すらしていないことに対して、確固たる思いを持ってしまうことなんです。

それはインフルエンザのウイルスのように、言葉を介して蔓延します。みんなが病んでしまって、あらゆるものをそのフィルターを通して見るようになり、そこから逃れることができなくなるんです。そうなると、他の誰かの現実があなたに押し付けられてしまう。つまり、もし誰かが「黄色いもの」を目にすると、その「黄色」という言葉に感染した世界中の人々が、まるで魔法のような毒に冒されたかのように、たとえ実際には赤くても、そこに黄色を見てしまうんです。そして彼らは、自分たちのフィード上で、その「黄色さ」を増幅させていきます。一方で、別の人たちは、その対象の「赤さ」を増幅させていくんです。

つまり私たちは、自分たちが実際に体験できるわけではないものによって押し付けられた、新たな現実の中に生きているんです。そして、その感覚を共有しているのだと思います。怖いですよね。本当に怖い。怖いです。

© 2026 WBEI and Legendary
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小島:『DIGGER/ディガー』も、観ていない人が批判したりしていますよね。僕が作った『DEATH STRANDING』という、歩いて配達をするゲームがあるんですが、ゲームをやっていない人から、いかにもやったかのように「これはウォーキングシミュレーターだ」と言われました。それはいまだに残っているんですけど、そこが結構一番怖いですね。

あとは当然、SNSにAIが入ってくるので、自分の好きなものばかりが出てくるじゃないですか。自分の好きな意見や好きなものしか目に触れなくなってくるので、まったく違うものや、全然違う意見が入ってこなくなるんですよね。そこが一番怖くて、だから偶然、誰かと出会ったりすることもありません。

今後、AIがコンシェルジュみたいに入ってくることで、自分の好きなものばかり食べたり、自分と同じ意見の人ばかりと出会うような、そういう構造というか。それもまさに、『DIGGER/ディガー』の舞台の中にいる人たちみたいに、誰かに操られているというか。その正体がわからない。そういうのが非常に怖いので、ぜひこの映画を観てほしいですね。

© 2026 WBEI and Legendary
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便利で自由なはずなのに、なぜ不自由なのか

イニャリトゥ:まったく同感です。私たちは、こういったツールによって自由を与えられているという、偽りの感覚を持っています。でも実際には、自由とは程遠いんです。私たちは基本的に、自らの衝動の被害者であり、奴隷なのです。そして、その衝動自体が他の何者かによって操られている。私たちは操られていることにすら気づかず、ネズミのように無限ループに陥っているんです。

だからこそ、私は若い世代に気づきを与えるために、彼らへのラブレターとしてこの映画を制作しました。そして、若者たちは今作を理解してくれているようです。「ある意味、自分たちが感じているけれど、あまりに複雑でうまく言語化できないものを、この映画は感じさせてくれる」という感想を受け取っています。

私たちはみんな、とても複雑なシステムに閉じ込められています。スマホは私たちにある程度の自由を与えてくれますが、それと同時に、私たちはあらゆる情報の奴隷でもあるんです。だから、『DIGGER/ディガー』は若い世代への警鐘のようなもので、彼らを目覚めさせようとしています。私にも娘と息子がいるので、それは大切なことだと思っています。

© 2026 WBEI and Legendary
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小島:『DIGGER/ディガー』の中でトムが「自由」と言っていましたけど、10分にわたる独白の中で……自由ではなくて、不自由なんですよね。我々は自由を求めて、これまで文明を築き、進化してきました。どんどん便利になって、デジタル化も進み、車や飛行機に乗ったり、水道やガスが使えるようになったりしてきた。でも今の時代、非常に自由だと思っているけれど、実はものすごく不自由なんです。

自分が人生の中で出会うものも絞られていって、今後はどんどん細くなっていくと思うので、そういう意味では、この映画を多くの人に観てもらって、警鐘を鳴らしてほしいと思います。コメディですけど、ものすごい力が込められた作品なので、ぜひ観てほしいです。僕のゲームもやってほしいですけどね(笑)。

映画を観終わったら、誰かと話してほしい

イニャリトゥ監督:同感です。私にとって最も重要なのは、トム・クルーズ率いる素晴らしい俳優陣が、登場人物を軸にした物語を通じて、私たちをその世界に引き込んでくれることでした。作品のメッセージ以上に、観客の皆さんにはストーリーテリングを通じて、自分なりに物語をたどっていってほしいと思っています。みんなそれぞれ、さまざまな感情や結論にたどり着くでしょうし、この物語へのアプローチもたくさんあると思います。

© 2026 WBEI and Legendary
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しかしそうは言っても、私にとって、そしておそらくすべての若者が感じていることで確かなのは、私たちが戦争状態にあるということだと思います。その戦争は現実に対するものなんです。私たちはみんな、ある意味で自分自身のストーリーを語っていて、自分の身体を通して現実を見ることができなくなっています。自分たちの概念やイデオロギー、宗教、信念、そして他のさまざまなものに囚われてしまっているんです。そのせいで、現実を自分自身の力で見たり、体験したりすることから遠ざけられている。そして、その現実を他の誰かと分かち合い、幸せになることからも遠ざかっているのだと思います。だからこそ、ここでは演劇という手法を用いたのです。

現実のリプレゼンテーションは、現実そのものよりもリアルなものです。なぜなら、それによって私たちは一歩引いて現実を見つめ、自分たち自身を客観視して、笑い飛ばすことができるから。この映画を観に来た人たちが、笑ったり、感動したり、そして何より、観終わったあとにたくさんの対話をしてくれることを願っています。きっと、思いがけない発見に驚かされるはずです。

© 2026 WBEI and Legendary
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なぜなら、私たちが抱えているもう一つの戦争の相手は、自然だからです。私たちは自然を単なる資源だと考えていますが、そうではありません。自然とは、私たち自身なんです。もし私たちが自然を滅ぼしてしまったら、それは私たち自身の破滅を招くことにもなります。きっと地球は完璧な状態になるでしょう。ただ、私たち人間がいなくなるだけです(笑)。だからこそ、若者たちは変わっていくはず。彼らは我々の世代よりもうまくやってくれるだろうと、強く期待しています。私たちの世代は最悪でしたからね。大惨事を引き起こしたのは、私たちの世代ですから。私はそう思っています。

Photo : Victor Nomoto
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『DIGGER/ディガー』は全国公開中。

Source: 映画『DIGGER/ディガー』公式サイト

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